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「もっと違う案を」が終わらない。AI時代の修正地獄を止める方法
AI時代の修正地獄を止めるには、生成回数を制限するより、制作前に「何を変えたいか」「何を基準に選ぶか」「誰が決めるか」を合意しておく必要があります。AIは案をつくる速度を上げますが、意思決定までは代わってくれません。

AI時代の修正地獄を止めるには、生成回数を制限するより、制作前に「何を変えたいか」「何を基準に選ぶか」「誰が決めるか」を合意しておく必要があります。AIは案をつくる速度を上げますが、意思決定までは代わってくれません。修正が終わらない現場に不足しているのは、制作力より、決めるための設計です。
AIが減らしたのは、本当に仕事だったのか
生成AIを使えば、コピーも画像も短時間で複数案を用意できます。以前なら数日かかっていた初稿が、その日のうちに揃うことも珍しくありません。
ところが、制作が速くなったはずなのに、プロジェクト全体はあまり速くなっていない。そんな感覚を持つ企業も増えているのではないでしょうか。
案を出す時間は短くなりました。その代わりに、どれを選ぶのか、なぜ選ぶのか、誰の意見を優先するのかという判断の時間が膨らんでいます。
「もう少し先進的に」
「別の方向も見てみたい」
「せっかくAIなのだから、もっと出せるのでは」
一つひとつは自然な意見です。ただ、選ぶ基準が曖昧なまま案だけが増えると、修正は前進ではなく探索のやり直しになります。速くつくれることと、速く決められることは、別の能力なのですよね。
案が増えるほど、決められなくなる
生成AIが創造性へ与える影響は、単純に「高める」「下げる」と言い切れるものではありません。
DoshiとHauserの研究では、生成AIの支援によって個人の作品に対する評価が高まる傾向が確認された一方、作品同士が似やすくなる可能性も示されました。個人の成果を押し上げながら、集団全体では均質化が進むかもしれない、という結果です。
画像生成AIを扱った別の研究でも、AIの出力例が発想を助けると同時に、特定の視覚表現への固着を招く可能性が報告されています。
選択肢が多ければ自由になれるとは限りません。似た案が大量に並び、その違いを説明できない状態では、判断する側の負担が増えていきます。
問題は案数ではなく、案と案の間に、意思決定に使える違いがあるかどうかです。
「先進的に」の先まで、話せているか
修正が長引く案件を振り返ると、依頼時の言葉が抽象的なまま残っていることがあります。
「信頼感がほしい」
「親しみやすくしたい」
「高級感を出したい」
これらは方向を示す言葉ではありますが、制作判断にはまだ足りません。
誰からの信頼を得たいのでしょうか。親しみやすさによって、どの行動を促したいのでしょう。高級感を出した結果、近寄りにくくなっても問題はないのでしょうか。
抽象語を禁止する必要はありません。その言葉が、顧客の認識や行動とどう結びついているのかまで話せているか。ここで制作の精度が変わります。
案を見る前に、ものさしはあっただろうか
完成案を見てから評価基準を考えると、人は目の前の表現に引っ張られます。
色が好みか。写真が好きか。文字が大きすぎないか。こうした感想は無視できませんが、事業目的と個人の好みが同じテーブルに載ると、議論の中心が少しずつずれていきます。
制作前に決めておきたいのは、何を満たせば採用できるのか、競合と何が違って見えるべきか、どのような印象は避けたいのかという判断の境界です。
評価基準があれば、修正は「好きではない」から「この目的に対して弱い」へ変わります。デザイナーも、言われた通りに手を動かすのではなく、目的に沿った別の解決策を提案できるでしょう。
その修正指示に、理由が残っているか
「文字を大きくしてください」という指示だけでは、制作側は指定された変更を行うしかありません。
その背景が「スマートフォンで商品名が読み取りにくい」なら、文字を大きくする以外にも、背景とのコントラストを変える、情報量を減らす、配置を見直すといった方法が考えられます。
修正では、どこに問題を感じたのか、その問題がユーザーや事業へどう影響するのか、今回は何を優先したいのかを伝える。ここまで共有されて初めて、制作側は専門性を使えます。
修正指示とは、答えを指定する行為ではなく、判断材料を渡す行為と考えた方がよいのかもしれません。
最後に決めるのは、誰なのか
関係者が多いプロジェクトでは、フィードバックの量そのものより、それぞれの意見がどの役割から出ているのかが重要になります。
大切なのは意見を言う人を減らすことではなく、誰が情報を提供し、その情報を誰が専門的な観点から読み解き、最終的な判断をどこに置くのかを明らかにしておくことです。
役割が曖昧なままでは、営業上の懸念とデザインの好みが同じ重さで扱われたり、専門的な判断が多数決で上書きされたりします。確認者が変わるたびに、昨日決めた方向が今日また検討事項へ戻ることもあるでしょう。
全員が意見を持つことと、全員が同じ権限で決めることは違います。この線引きを避けたままでは、AIが何案つくっても終点は見えてきません。
修正を止める会議は、制作前に開く
修正回数を減らしたいなら、完成後のレビューを厳しくするより、制作前の会話を具体的にする方が効果的です。
まず、制作物の目的を「何をつくるか」ではなく「誰の認識をどう変えたいか」で書いてみます。
「採用サイトを新しくする」では、完成物しか決まりません。
「経験者から、堅実だが変化の少ない会社だと思われている状態を、専門性を生かして新しい仕事へ挑戦できる会社だという認識へ変える」と置けば、写真、コピー、構成を判断する軸が生まれます。
AIに複数案を求める場合も、数を増やすこと自体を目的にしません。どの仮説を比較するための案なのかを決めます。安心感を優先した案と、挑戦性を前面に出した案では、見た目が違うだけでなく、検証している考え方が違うからです。
選ばなかった案の理由も残しておくと、後日の議論が戻りにくくなります。「今回は採用しなかった」ことと「永久に使えない」ことを分けて記録できるため、次の制作にも判断が引き継がれます。
AIに話しかける前に、人間同士で話せているだろうか
生成を始める前に、次の問いへ答えられるか確認してみてください。
- 誰の、どのような認識や行動を変えたいのか
- 今回、必ず守る条件は何か
- 競合や既存表現と、どこを違って見せたいのか
- 情報提供、専門的判断、最終決定を誰が担うのか
- どの状態になれば、追加生成を終えるのか
答えられない問いがあれば、プロンプトを書く前に短い会話が必要です。
AIへの指示を精密にすることは大切ですが、その前提となる人間側の判断が揃っていなければ、精密な指示は書けません。プロンプトの問題に見えていたものが、実際には組織内の合意形成の問題だった、ということもあるでしょう。
「早くつくれた」だけで、成功といえるだろうか
AI導入の効果を制作時間だけで測ると、初稿の速さばかりが評価されます。
確認に参加した人数、方向性が決まった後の大幅な変更、意思決定にかかった日数、公開後の成果まで見れば、制作工程の別の姿が見えてきます。初稿が数時間早くても、判断が一週間延びていれば、プロジェクト全体が速くなったとは言いにくいでしょう。
見るべきなのは、AIが何枚つくったかではありません。組織が、どれだけ早く納得できる判断へ到達したかです。
クリエイティブの速度は、決断の速度で決まる
生成AIは、アイデアを試すコストを大きく下げました。これまで予算や時間の都合で検討できなかった方向まで、比較できるようになっています。
この自由を成果へ変えるには、生成力と同じくらい編集力が必要です。
何を目指し、何を基準に見て、誰が決めるのか。ここが揃っていれば、AIは探索の幅を広げてくれます。揃っていなければ、迷いを高速で増幅する装置にもなり得ます。
etomojiでは、AIを単なる量産手段としてではなく、独自の制作設計と評価基準の中で活用しています。速くつくることより、違いのある案をつくり、事業に必要な一案を選べる状態まで設計する。
AI時代に問われているのは、何案出せるかではありません。
何をもって「これでいく」と言えるのか。その決断の質ではないでしょうか。
参考文献
- Doshi, A. R. & Hauser, O. P.(2024)Generative AI enhances individual creativity but reduces the collective diversity of novel content
- Wadinambiarachchi, S. et al.(2024)The Effects of Generative AI on Design Fixation and Divergent Thinking
- Crilly, N.(2015)Fixation and creativity in concept development
- Nielsen Norman Group — Design Critiques: Encourage a Positive Culture to Improve Products
