AI時代、デザイン会社の仕事は本当に減るのでしょうか?

ChatGPT、Gemini、Claudeなどの登場によって、AIがつくったクリエイティブを見る機会が一気に増えました。
「デザイナーはいらなくなる」という声もあれば、「AIでは代替できない仕事もある」という議論も目にします。
実際、私たちのもとにもAIで制作したラフデザインが届くことが増えました。その中で、「AIによって仕事は減りましたか?」と聞かれることがあります。
結論から言うと、私の答えはシンプルです。

減る仕事もあります。増える仕事もあります。

そして、私たちの仕事はむしろ増えています。

「デザインをつくる仕事」ではなく、「デザインを定義する仕事」が増えました

最近増えた相談は、「AIでブランドらしいデザインを再現したい」「社内でAIを使い始めたけれど品質が安定しない」「誰が作っても一定品質になるルールを作りたい」といった内容です。数年前には、ほとんど存在しなかった相談です。つまり、お客様がデザイン会社に求める役割そのものが変わり始めています。

AIは優秀ですが、今はまだ人の手が必要です

AIは画像も文章もコードも生成できます。スピードも驚くほど速く、制作の効率は大きく変わりました。しかし、AIが苦手なのは「何が良いデザインなのか」を自分で判断することです。余白はどれくらい必要なのか。この色はブランドに合っているのか。この写真で本当に信頼感は伝わるのか。広告として成果が出るのはどちらなのか。こうした判断には、経験と文脈が必要になります。

私たちが25年間積み重ねてきたものは、暗黙知

私は約25年間、デザインに携わってきました。ブランドデザイン、広告、販促、Webサイト、プレゼンテーション、インフォグラフィックスなど、多くの案件を経験してきました。その中で蓄積されたものは、IllustratorやPhotoshopの操作技術ではありません。「この余白の方が伝わる」「この構図なら視線が流れる」「このコピーでは反応しない」「この写真ではブランドの格が下がる」。こうした判断基準こそが、本当に積み上げてきた資産だと考えています。

経営学では、このような経験に裏付けられた知識を「暗黙知」と呼びます。暗黙知とは、頭の中にはあるものの、言葉では説明しにくい知識です。経験によって自然と身についた判断力とも言えます。これまでは、それでも仕事になりました。デザイナー自身が頭の中で判断すれば良かったからです。

AIは「暗黙知」を言葉にできたとしても個別案件に最適化された「つなぎ」の精度がまだ甘い

ところがAIは、人の頭の中を読み取ることはできません。「もっとブランドらしく」「高級感を出して」「洗練された印象で」と伝えても、その意味を正確には理解できません。だからこそ、「ブランドらしさとは何か」「高級感とは何か」「洗練とは何か」を、一つひとつ言葉にして定義する必要があります。AIは、これまで暗黙知だったものを形式知へ変換することを求める技術なのです。

最近の案件は、デザイン制作だけでは終わりません

最近では、「デザインを作ってください」という依頼だけでは終わらなくなりました。「AIでも同じ品質を再現したい」「ブランドのOKラインとNGラインを整理したい」「社内で誰でも同じ判断ができるようにしたい」。こうした相談が増えています。つまり求められているのは制作物ではなく、判断基準そのものです。

良いデザインをつくる前に、良いデザインを定義する

私たちは案件の中で、「このブランドではこの色は使わない」「この写真は世界観が違う」「このアイコンは情報量が多すぎる」「この質感ならブランドらしく見える」といった基準を、一つずつ言語化していきます。良いデザインを言語化すると、同時に「悪いデザイン」も明確になります。どこまでがOKで、どこからがNGなのか。その判断基準があるからこそ、AIも人も迷わなくなります。

AI時代に価値が高まるのは「判断できる人」

私は、AIによってデザイン会社の価値が下がるとは考えていません。むしろ、「良いデザインとは何か」を定義できる人、「なぜ良いのか」を説明できる人、そして、その判断をAIでも再現できる形に落とし込める人の価値は、これからさらに高まっていくと思っています。

AI時代のクリエイティブは、「つくる競争」から、「判断を設計する競争」へ移り始めているのではないでしょうか。