DNAを刻む会社「豊受」1/2 〜工場長 粟屋氏に聞く〜

現場から見る、会社の成長の必要性について。いい人材が残る組織には、会社の基準を伝え続けることが必要

Q. 会社を大きくしなくても良いという考え方もあると思います。会社を伸ばしたかった理由や動機は?

昔は私も保守的だったのですが、変わったタイミングがありました。止まっているのはマイナスなんだというのを感じました。それは本などで読んだのもありますが、周りを見ていると自ずと分かるものでした。止まっている人や会社は落ちていくんです。大きな会社では、開拓・開発部隊というのがあって、常に前を見て新しいことを感知するという組織があります。ですが豊受はそうではなかった。だから自分も皆と一緒に勉強していこうと思いました。前を向かないと!と。大それたことじゃなく、普通そうじゃないのと思えるようになっていったんです。

Q. それは責任感からですか?

上野原に来た時に気づいたんです。工場開設にあたり人を集めたのが現会長だったのですが、集まりにくかった中で大変だったと思います。会社に出社すれば給料をもらえるという意識の人も見受けられました。私はそれを見てびっくりしました。地方にずっとい続けるよりも、都会に出た人の方が意欲が高いと感じます。周りを見る限り、都会に出ている人は前に進もうと考える人が多かった。東京にいた時は感じなかったのですが、上野原に来て、周りを見た時に気づきました。それじゃあ伸びないと思ったので、手を打ちたいと思ったんです。

今でこそ組織に関するセオリーやメソッドのようなものがありますが、当時はそういうのがなく、意欲の低いまま働く人がいました。その様な人ではなく、意欲のある人が居られる組織にしたいと思いました。会社がダメになると、タイムカードだけ押せばいいといった働き方が生まれて良くない。

ダメな人が居づらい組織というのは、何も叱責をするということではありません普通のやり方を普通に言うだけ。「会社のルールはこうです、こうしましょう、こういうやり方でいきましょう」を淡々と言うだけ。価値観を伝えるんです。そうすれば、意欲のある人が残りやすい環境になります。

Q. うちの基準はこうですを丁寧に伝えることで、いい人が残るんですね

そうですね。昔は厳しかったと言われることもありますが大切なことだと思っています。その時はそれが普通、今には今の普通があります。こうあるべきを会社の状況で判断することが大切ですね。

Q. これから先、受け継いでほしい技術などはありますか

今は機械の性能が著しく進歩しています。機械を把握・管理をする「意識」を受け継いで欲しいと思います。
すごくいい機械だけど、あくまで機械なんです。いい機械であるからこそ、オペレーターが出鱈目をやっていると、機械が正直にそれを出してしまいます

だからその機械を働かせるための「考え方」を受け継いで欲しいと願っています。技術は昔の半分でいいが、その分で機械を使いこなす技術が必要です。扱う人間が意識を持てば、昔よりもいいものができます。

でもその入力には知識が必要です。機械を大切にすること。そしていいものを作る意識を持つこと。これがあれば、昔よりもいいものを受け継ぐことができると思います。いいものとは「お客様がこうして欲しいと願うもの」「喜んでもらえるもの」。状況が難しくても、考えて対処しようとすることで、お客様が満足できるもののことです。自分の判断基準を高く持って、やれることは100%で頑張る100%の力で全うすればお客様に通じる。これが私の考える、いいもの作りに必要なことだと考えています。

—ありがとうございました(清川)

インタビューを終えて

粟屋常務のお話は、当時の情景が浮かびそうなほど、リアルで経験知に富んだ実のあるお話でした。この後、実際に機械を見ることになるのですが、現場で働く人たちがどんな働き方をしているのかを知った上でも、豊受さんのこれまでの文化が現場に根付いていて、大変すばらしいものを見させていただきました。

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