DNAを刻む会社「豊受」1/2 〜工場長 粟屋氏に聞く〜

ものづくりの現場で得た経験・後続に伝えたいこと。成長していく人材とは。求められる力とは。

Q.教わらなかった経験は、粟屋さん自身が後続に伝えていく行動に影響しましたか?

はい。自分は教わらなかったのですがそれを基にすべてが良かったわけではないので、人にどんどん教えるということをしました。ある程度自分の中で「これはもう大丈夫」と思える地点までは叱りましたが、一定のレベルに達すれば、本人に任せることにしました。指導は厳しかったと思いますが、当時としては普通でした。

Q.ある意味、厳しさが成長や技術向上につながったと?

守離破の原理で育成しました。間違ったことをやらなければ早く成長するし、まずは言われた通りにやること。自分でやってもいいよというタイミングが来たら自分なりに考えることが求められますが、まずは言われた通りにやることを徹底しました。

Q.成長する人・しない人。残る人・残らない人。何か違いはありますか

成長し、残っていく人は、学生時代に運動部に所属していて、少し悪かった人(笑)。ガッツがあって残るんです。あまり真面目だと残りにくい。いま主力になっているのは、その様な人たちです(笑)
今の立場を辛抱できる気力があって、辛抱しながら積み重ねる気持ちの強さがある、そういう人が残ります。
例えば印刷に「青」がある時に、同じように見える「青」でも赤っぽい青の場合、赤が強くてそう見えるのか、青が弱くてそう見えるのか?経験の浅い人が見ると、同じ色が表現できにくいことがあります。そういう壁にぶつかった時に、真面目すぎる人とある意味いい加減な人とでは、モノの捉え方が異なります。真面目すぎる人は「青」という色としての部分に囚われがちで狭い範囲に執着してしまいがちだが、良くも悪くもいい加減な人は広い視野で調整を試みます。これがとても重要です。

モノの見方というセンスが多くの場面で必要なので、固執して進まない人は伸びにくいです。大きな考え方で試してみる、好奇心がある人が、伸びる人の特徴と言えるかも知れません。また印刷は特に頭の良さが求められます。ここでいう頭の良さとは、数学ができるといったことではなく「考える力」のことです。そういった部分がセンスに大きく影響してきます。

Q.「考える力」について、もう少し詳しく教えてください

例えば白い椅子を見ている時に、ある人は「これは白い椅子ですね」と言います。ある人は「これはこういう材料でできた白い椅子ですね」と言います。ある人は「これはこういう材料でできた、会議室で使うために作られた白い椅子ですね」と言います。一つのものを見ただけで、たくさんの視点を持てる力。言われただけをやる人ではなく、何も言わなくても自分で考えてできる力。これが考える力だと思います。

Q. 物事を多面的に捉えることを、普段お仕事をされる中で何か伝えていますか

最近はあれやこれや最初から多くを言わないようにしていますが、質問されれば答えるようにしています。単純にこうだよと正解を言うだけではなく、モノの見方・考え方を伝えています。ヒントを与えるイメージです。ここに注目してみたらいいよと言うような伝え方ですね。例えば、色が出ないとすると「印刷じゃなくてデータが原因かもね」だとか「紙の色が違うから出にくいかもね」だとか、そう言う、広い視野から考えさせるようなアプローチを取っています。

Q. 業界による特異性、傾向などから、これまで難しいと感じたご経験を教えてください

難しいと思ったことは何もないのですが、タレントさんを使った印刷は許容値が狭くて厳しかったですね。顔が綺麗に鮮やかに出ないからデータを作り直して欲しいといった要望をしたこともありましたね。自分の手順の範疇を手早く確実にやれば、自分以外の部分でどこがおかしいといった決断が素早くできたりします。そういう考え方でやってきました。

Q. 難しいものはないとおっしゃるのが印象的ですね。では最も喜びを感じたお仕事についても教えてください

やっぱり初めの方ですね。40代の頃に、プロ野球団の販促タオルのケースで2色機で4色印刷をした時です。ボリュームがとにかく多くて、大変で。二日ぐらい寝ずにやりました。それをどうにか刷り終えた時には嬉しかったですね。技術的と言うより、物量的に大変でした。できた時は達成感がすごくて、あの経験は良かったです。

他には、設備投資をした時です。ローランドの機械の2号機を導入しようと進言したとき、多方面から設備投資はまだしなくてもいいんじゃないのという意見がありました。
でも押し切って良かったと思っています。「いま投資をしないとダメだ、入れれば伸びるんだ」と説得しました。「ローランド1号機の生産性の伸びが大きく、ローランドが2台になれば、以前より生産性が4倍以上になる。旧機で5年かかる技術習得が半分ぐらいでできるんです」と説明しました。若い人が増えてくると尚さら投資は必要で、昔の職人みたいなやり方ではなく、生産性が上がり、色の管理もできるようになることがメリットでした。見えない感覚で職人がやっていたものが可視化され、若い人が入りやすくなります。成果も上がりやすいし、色もきれいに出て再現性が高まりました。価格は高いが確実に良いものでした。あれは投資して正解でした。

Q. その時々の意思決定によって、若手へと受け継がれていくんですね。社長さん・営業・技術との一体感はどう作ったのでしょう

声は大きかったので(笑)。会社を伸ばしていこう、大きくしていこうということを言いました。現状維持の保守的な人もいましたが、そうではなく、レベルの高いものが印刷でできるようになれば営業もラクになるんだからということを伝えました。

Q. 語らずとも、モノが良いから売れるよということですね

そうです。今もそれが継続していて、良いものができるから営業がラクでしょうと。