タイトルからは想像しにくい程に、死と向き合うことにより生の感覚が掴める珠玉の一冊
死にかた論、と言われると、死ぬまでのプロセスなど恐ろしい内容を想像する人が多いだろうと思います。ですが、この本はそういった本ではなく、死からみた生を瑞々しくさまざまな角度から描いている、哲学書だと私は感じました。安楽死という一つの概念から入り、他国での死の取り扱い方、生死についての捉え方や、仏教の教えに至るまで。死をめぐる旅をするかのように、生きることについて見つめ直すことができる一冊です。
佐伯啓思さんの文体は、時に心臓にグサリと刺さるような鋭利な面を持っていますが、それゆえに非常に考え方を改革させられる価値ある文体だと思います。
私はこの本に出会い、死ぬこととは何か、生きることとは何か、生きづらさを感じた時にどのように今を捉えたら良いかなど、大きな気づきがありました。自分の存在意義や生きる意味が分からなくなる前に、この書籍に出会っていて良かったと、心から思います。
七十歳を過ぎた稀代の思想家が、自らのこととして死と向き合った。欧米の「生命尊重主義」では、とてもじゃないが穏やかに死ねない。ヒントは古(いにしえ)からの日本人の死生観にあるにちがいない。自然信仰を探り、日本仏教の「死と生」の関係を見る。西洋とは全く違う「死にかた」を知った時、私たちは少しばかり安心して旅立てる。
https://www.shinchosha.co.jp/book/603866/
まえがき
第一章 安楽死という難問
家族だけはダメなんだよ!/ワシラコロセ/日本の家族主義/確定していない近代社会の死生観/「生」と「死」の境界線
第二章 安楽死と「あいまいさ」
安楽死の容認/尊重とは何か/健常者の「生」とそうでない「生」/共感と人格/ひとつの答えはない
第三章 「死」が「生」を支える
尊厳とは「生」の側の論理/「生」の拡張と「死」の忘却/「生」も「苦」/浄土はこの世にある/AはAでなくしてAである/水面の月
第四章 日本人の「魂」の行方
無駄な問いが気になる者/死は救済なのか/死者の霊は山にゆく/死生観なき死生観/魂は「ここに」いる/「自然」からでて「自然」に戻る/「荒ぶる神」であり「恵みの神」である/万象を貫く「根源的な生命」
第五章 仏教の死生観とは何か
仏教は死を歓迎するのか/確かな実体など存在しない/大きな因果に組み込まれているだけ/「生」は煩悩そのもの/死んでも「苦」は残る/蓮には泥水が必要/釈迦の覚りの普遍性/釈迦は死しても法は受け継がれた/「縁起・無自性・空」
第六章 道元の「仏性」論
生も死も同じ/覚りは現実世界にある/誰でも「仏性」をもっている/なぜ衆生は苦痛にあえぐのか/心の二重性/世界はそのまま仏性である/一瞬一瞬が修行/日本独特の死生観
第七章 「生と死の間」にあるもの
生もよし、死もよし/「間」は「無」であり「空」/生と死の間に無常/生や死をそのまま受けとめる/生者は死者から何かを受け取る
第八章 「死」とは最後の「生」である
人間だけが死ぬことができる/不条理となってしまった現代の死/もどきの死生観/深層に生死一如/死生観を掘り起こす
https://www.shinchosha.co.jp/book/603866/
著者
[著]スコット・オルセン(オルセン,スコット)
スコット・オルセン
哲学者、比較宗教学者。セントラルフロリダ短期大学教授。”Compositions in Two Languages”など著書多数。
[訳]藤田 優里子(フジタ ユリコ)
※著者紹介は書籍刊行時のものです。
刊行年月日:2009/11/12
ISBN:978-4-422-21475-7
定価:1,320円(税込)
判型:B6判変型 174mm × 147mm
造本:上製
頁数:72頁
詳細は、創元社のホームページをご覧ください。
https://sogensha.co.jp/productlist/detail?id=3340