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デザインの語彙は、案を出すほど増えていく。
重ならない案をつくって比べ、違いと選択理由を言葉にする。その繰り返しがデザインの語彙を増やし、AI生成の判断にも役立ちます。

デザインの「語彙を増やす」と聞くと、本を読んで新しい表現を覚えることを思い浮かべるかもしれません。それも一つの方法です。ただ、今日の制作から始められることもあります。同じ課題に対して、重ならない案をいくつか出し、すべてに「なぜこうしたか」を言葉で添えてみることです。案を比較して初めて見える違いが、次の判断に使える語彙になります。
一案だけでは、見えない特徴がある
たとえば、落ち着いた印象のロゴを一つつくったとします。その時点では「落ち着いている」以上の説明が出てこないかもしれません。同じ条件のまま、文字の間隔を大きく取った案、線の太さを抑えた案、文字の重心を低くした案を並べると、落ち着きのつくり方がそれぞれ違うと分かります。
「余白が呼吸をつくっている」「細い線が軽さに寄りすぎている」「重心を下げると安定するが、動きは弱まる」。こうした言葉は、完成した一案を眺めるだけでは出てきにくいものです。別の可能性が隣に置かれたことで、ようやく輪郭が見えてきます。
ここでいう語彙は、形容詞のコレクションではありません。形や配置の差が、受け手の印象や目的にどう関わるかを説明できることです。
バリエーションは、色違いの枚数ではない
案を増やしても、同じ構図の色だけを替え続ければ、見える差は限られます。情報の優先順位を逆にする。文字を主役にした案から、余白を主役にした案へ振る。既存案の一部を強調するだけでなく、その前提自体をひっくり返す。観察に加え、比較、派生、逆説を往復すると、最初には思いつかなかった方向へ届きます。
etomoji代表の清川は、依頼された案数とは別に、期日までに自分の頭からいくつ案を出せるか、個人的な課題として取り組んできました。数は提出物を水増しするためではなく、最初に思いついた解に留まらないための負荷です。出した案に一行ずつ意図を書き、説明が同じになる案はどこが重複しているかを見直す。逆に、説明しようとして言葉に詰まった案は、まだ気づいていない違いを含んでいるかもしれません。
過去に清川が担当したゲームコンテンツでも、ロゴ制作時に80案以上のバリエーションを出し、入念に選別しました。大切なのは「80」という数字を目標にすることではありません。候補を広げたうえで、何を残し、何を捨てたか。その選別に使った言葉が、次の仕事にも持ち運べる引き出しになります。
比べて説明すると、経験を次に持ち運べる
複数案を並べる意義は、制作研究からも補助線を引けます。スタンフォード大学の研究では、ウェブ広告の試作を一案ずつ進めた参加者に比べ、複数案を並行してつくってから講評を受けた参加者のほうが、実験内でより多様で評価の高い案を生みました[1]。別の学習研究では、二つの事例を別々に読むより比較して共通の構造を探すほうが、その後の課題への応用につながりました[2]。後者は交渉を題材にした研究であり、デザインの語彙の増加を直接測ったものではありません。
ここから制作に引き寄せて考えるなら、案をつくるだけで終えず、「何が同じで、何が違うか」「その違いは目的に対してどう働くか」を説明するところまでが練習です。見つけた差を名前にし、次の案でその要素を強めたり、あえて反転させたりする。繰り返すうちに、一度きりの感覚が再利用できる判断軸へ変わっていきます。
AIに渡す言葉も、比較から具体的になる
この語彙は、AI生成でも使えます。「上品なデザインにして」と頼んだだけでは、何を上品と感じるのかがまだ伝わりません。候補を見比べて「彩度は抑えたいが、余白は広げすぎない」「文字は柔らかく、見出しの存在感は残す」と分かれば、次の指示も修正も具体的になります。画像生成の公式ガイドも、用途や意図、構図・質感などを明確にし、修正は対象を絞って伝える方法を勧めています[3]。
AIに大量の案を出してもらうことはできます。ただ、どの方向が重複し、何を変えると別の意味になるかを見分けられなければ、候補が増えるほど選びにくくなります。まず自分でも違う切り口を出してみる。そのうえでAIに未探索の方向を広げてもらい、生成結果を比較し、理由をもって選ぶ。語彙は指示を書くためだけでなく、選択するためにも必要です。
次の制作では、最初の一案を仕上げる前に、同じ目的から離れない範囲で異なる方向のラフを並べてみてください。そして各案に一行、「何を変え、何を得て、何を失ったか」を書く。その比較から生まれた言葉こそ、次の制作で使える新しい引き出しです。
デザインやAIを使った制作の判断を、より具体的にしていきたい方は、etomojiにご相談ください。
